― 50代から始める“受け取り計画” ―
2025.11.24 <00974>
1. 退職金は「もらってから考える」では遅い
FP相談に来られる50代男性の半数以上が、こう言います。
「退職金は、もらってから考えればいいですよね?」
実はこれが 最も危険な考え方 です。
なぜなら、退職金で失敗する人の多くが
“受け取り前に準備していなかった”
という共通点を持つからです。
退職金は多くの人にとって
人生で最後の大きなまとまった資金。
使い方ひとつで、
老後の安心が10年単位で変わります。
しかし、
・勢いで投資商品を契約してしまった
・一括預金にして増えなかった
・使った後に税金が発生して焦った
・知らないうちに保険に加入していた
など、後悔している例が非常に多いのが現実です。
50代から準備することで、
退職金の“活かし方”が圧倒的に変わります。
2. 退職金をめぐる「3つの誤解」
まずは、50代によくある誤解を解いておきましょう。
誤解①
「退職金は銀行で運用すれば間違いない」
→ これが一番危険。
退職金の相談窓口は“商品販売が目的”で、
あなたの人生プランを優先してくれるとは限りません。
投資信託・保険・仕組債など、
高リスク・高手数料のものが提案されるケースも多いです。
誤解②
「一括でもらうほうが得」
→ 税金の計算は“一括”が必ず有利とは限りません。
会社員としての勤続年数や金額で最適解は変わります。
誤解③
「預金に入れておけば安心」
→ 安心ではありますが“資産が育たない”。
退職後の30年を考えると、
インフレに負けて実質的に資産が目減りします。
退職金は、
「守る」「育てる」「使う」
この3つを同時に考えないとバランスを崩します。
3. 50代から始めるべき“退職金準備”はこの4つ
ここでは、
退職金を安全に・効果的に活かすために
50代のうちにやるべき「4つの準備」を解説します。
① 退職金の金額と受取方法を確認する
まずは、これを知らなければ始まりません。
✔ 自分の退職金がいくらか、知っていますか?
意外ですが、
50代男性の7割以上が“正確な金額を知らない”といわれています。
✔ 会社ごとに退職金制度が違う
- 一時金として受け取る方式
- 企業年金として受け取る方式
- 一部を年金、一部を一時金で受け取る方式
また、
退職年齢や役職によっても金額は変わります。
まずは会社の総務・人事に確認しましょう。
✔ 50代で把握すべきポイント
- 一時金としての見込み額
- 企業年金としての年額
- 受け取り年齢
- 税金の扱い
- 退職金規程の有無
これを知るだけで、
「老後資金の足りる・足りない」が明確になります。
② 受け取り方(税金)を“計算”して最適解を見つける
退職金について最も誤解されているのが 税金。
退職所得控除という制度があり、
勤続年数が長いほど税金は大幅に軽減されます。
✔ 退職所得控除の式
20年までは:40万円 × 勤続年数
20年超は:800万円 + 70万円 ×(勤続年数−20年)
✔ 例)勤続35年・退職金2,000万円
控除額:800万円 + 70万円×15年 = 1,850万円
課税対象:2,000万円−1,850万円 = 150万円
退職金が2,000万円あっても、
課税対象は150万円しかありません。
✔ 一時金か、年金か、どちらが得?
多くのケースでは 一時金受取りが有利ですが、
次の条件で変わります。
🔍 一時金のほうが有利な人
- 勤続年数が長い
- 退職金がまとまっている
- 税制優遇を最大限使いたい
🔍 年金受取りが有利な人
- 年金と合算したい
- 長生きリスクを避けたい
- 資産を少しずつ使いたい
- 投資に不安がある
🔍 ハイブリッドが最強
一時金+企業年金の組み合わせは、
税金面と資金計画のバランスが取れます。
③ 退職金の「使い道」を4つの箱に分ける
50代から準備する最大のメリットは、
退職金を“目的に応じて分けられる”ことです。
FPとして推奨するのは、
次の4つの箱に分ける方法。
📦【箱①】生活防衛資金(1〜2年分)
万一の病気や収入空白に備える資金。
現金で確保。
📦【箱②】老後の固定支出資金
・車の買替
・家の修繕
・家電
・保険料
・医療費
これらの費用を“退職金の中から先取り”してしまう方法。
📦【箱③】運用資金(時間を味方に)
一括投資ではなく
**分割投資(ドルコスト平均法)**が基本。
・リスク資産:20〜40%
・安定運用:60〜80%
50代ならまだ10〜20年の運用期間があるため、
焦らず育てることが大切。
📦【箱④】“楽しみのための資金”
旅行・趣味・夫婦の記念日・帰省費など。
実はこれを確保している人ほど
老後の幸福度が高いことがデータで明らか。
④ 退職金の“出口戦略”を準備する
資産は、
“増やすとき”より“使うとき”のほうが難しい
という事実があります。
出口戦略(取り崩し計画)を作るのは必須です。
✔ FPが推奨するルール
「年間3〜4%以内で取り崩す」
例)退職金+預貯金=3,000万円
→ 年間90〜120万円
→ 月7.5〜10万円
この範囲なら、
資産が長期間持ちやすい。
✔ 取り崩しでやってはいけないこと
- 一気に引き出して大きな買い物
- 投資商品を“売り時を焦って売る”
- 生活費にダラダラ使ってしまう
- 投資や副業で取り返そうとする
退職金は、
“計画的に使う”ことが安心につながります。
4. 退職金で失敗する人と成功する人の違い
FPとして多くの家庭を見てきた中で感じた
「成功する人」の特徴をまとめます。
✖失敗しやすい人
- もらってから考える
- 勢いで投資商品を買う
- 銀行・保険会社の勧誘に任せる
- 老後資金を一括で投資
- 目的が曖昧
- 夫婦で話し合っていない
◎成功する人
- 50代から準備している
- 受取り方(税金)を理解
- 資金を4つの箱に分ける
- 徐々に運用
- 年間の取り崩し額を決める
- 夫婦で目的を共有
準備の差が、そのまま老後の差になります。
5. まとめ:退職金は「人生の燃料」
退職金は、
贅沢するためのお金ではありません。
倹約するためのものでもありません。
**“人生を最後まで安心して生き切るための燃料”**です。
50代のうちに
・金額
・受け取り方
・税金
・使い道
・運用方針
・取り崩しルール
を整えておくことで、
60代・70代の暮らしの満足度は圧倒的に上がります。