“隠れ支出”5選と、その対策
2025.11.6 <00956>
1. 「退職すればお金はあまり使わない」――は本当?
定年退職を迎えた方の多くがこう思います。
「通勤費もいらないし、昼食代もかからない。これからは節約できるはず」
確かに、仕事に関する出費(交通費・交際費など)は減ります。
しかしその一方で、**退職後に“増える支出”**が意外と多いんです。
ファイナンシャルプランナーとして60代のお客様と家計を見直すと、
「思っていたより出ていくお金が多い」という声がとても多く聞かれます。
その原因は、家計簿に現れにくい“隠れ支出”。
「毎月ではないけれど、気づいたらけっこうな額になっている」出費です。
今日は、そんな“退職後の隠れ支出”を5つの視点で整理し、
どんな対策をすれば「安心して使える老後」をつくれるのかを解説します。
2. 隠れ支出① 医療費・健康関連費
退職後、最も増える支出のひとつが医療費です。
現役時代は会社の健康保険に守られていましたが、退職後は保険の仕組みが変わります。
💡退職直後に増える要因
1️⃣ 健康保険料の上昇
退職後は「国民健康保険」または「任意継続被保険者制度」に切り替えますが、
どちらを選んでも自己負担額が増える傾向にあります。
特に任意継続の場合は、
会社が負担していた保険料分も自分で払うため、
現役時代の約2倍の保険料になるケースも。
2️⃣ 通院・薬代・検診費の増加
退職して時間ができると、健康診断や持病のケアなどで医療機関に行く機会が増えます。
また、年齢とともに薬の処方も増え、月数千円〜年間数万円単位の支出になることも。
✅対策
- 「高額療養費制度」や「医療費控除」を活用
- 家計簿に“医療積立(年間5〜10万円)”を設定
- 75歳以降の「後期高齢者医療制度」で自己負担率が変わることを確認
💬FPポイント:
「医療費」は“予測不能な支出”。
月額費用にせず、“年間予算枠”で管理するのが現実的です。
3. 隠れ支出② 税金・社会保険料
意外と多いのが、「退職した年」と「翌年」の税金の高さに驚くケースです。
💡退職直後の“税金ショック”の仕組み
退職金がある年は所得が増えるため、
翌年の住民税や国民健康保険料が高額になるのが典型的なパターンです。
たとえば、退職金や再雇用の給与が合計で400万円あった場合、
翌年の国保保険料が年間40万円以上になることも。
また、退職後すぐに公的年金を受け取る場合は、
年金にも所得税・住民税がかかります。
✅対策
- 「退職金の分離課税」と「社会保険料の計算期間」を確認
- 退職年と翌年の所得をシミュレーションしておく
- ふるさと納税や医療費控除など、控除制度を活用
💬FPポイント:
税金・保険料は“1年遅れでやってくる”。
退職後の1年間は「税・保険用の積立」を用意しておくと安心です。
4. 隠れ支出③ 家・車のメンテナンス費
現役時代は気づきにくいのが、
**住宅や車の「維持・修繕コスト」**です。
🏠 住宅のケース
築10年、20年、30年…と経過するにつれて、
- 外壁塗装(約100万円〜150万円)
- 給湯器・トイレ・エアコンなどの交換(数万円〜)
- 屋根修繕や雨どい工事
といった大きな支出が発生します。
「まだ大丈夫」と思って先送りすると、
故障や劣化が重なり、一度に数十万円〜百万円単位の出費になることも。
🚗 車のケース
定年後も車を所有し続ける場合、
- 車検・保険・ガソリン・駐車場代
- タイヤ・バッテリー交換
などで、年間20万円〜30万円の維持費がかかります。
「車が生活に必要」という方も多いですが、
ライフスタイルに合わせて、維持 or 共有 or 手放すの選択を考える時期でもあります。
✅対策
- 「住宅メンテナンス積立」を毎月1万円程度確保
- 車の維持費を“月額換算”して比較検討
- 地方在住者は、カーシェアや軽自動車化も検討
💬FPポイント:
“資産を持つ”ということは、“維持費を払う責任”があるということ。
家や車のメンテナンス費は「将来の固定費」として可視化しておくことが大切です。
5. 隠れ支出④ 交際費・贈答費
退職すると、会社付き合いは減るものの、
今度は地域・家族・趣味のつながりが増えていきます。
- 孫や子どもの誕生日・入学祝い
- 冠婚葬祭・香典・法事
- 友人とのランチや同窓会
- 町内会・サークル活動
これらは、1回あたりは数千円でも、年間では10万円を超えることも珍しくありません。
✅対策
- “年単位”で交際費を予算化(年間10〜15万円目安)
- 孫への贈与は「教育資金贈与非課税制度」などを活用
- キャッシュレス決済で支出を見える化
💬FPポイント:
交際費は“人とのつながりの証”。
削りすぎると心の豊かさが減ります。
「使うことを前提に、ルールを決めて管理」するのがベスト。
6. 隠れ支出⑤ 趣味・旅行・学び直し
時間にゆとりができる退職後は、“やりたいこと”にお金を使う時期。
でも、思っている以上に支出が膨らむこともあります。
💡よくある例
- 国内旅行(1回10万円 × 年2回で20万円)
- ゴルフやスポーツジム会費(月8,000円 × 12ヶ月で10万円弱)
- カメラ・園芸・釣りなどの趣味用品
- 大人の学び(語学・資格・文化教室)
こうした“楽しみ費”は、生活の質を上げる大切な出費。
でも、**「年間でどのくらい使うか」**を決めておかないと、
気づけば貯蓄がじわじわ減っていく原因になります。
✅対策
- 「楽しみ予算」を年単位で設定(例:年間30万円)
- 旅行・レジャー費は“積立型”にする
- 無理のない範囲で“楽しみの可視化”を
💬FPポイント:
老後の家計管理は、「いくら使ったか」より「何に使って幸せだったか」。
“楽しみ費”は罪悪感ではなく、“生きがい費”として計画的に。
7. 「隠れ支出」を見える化すると、安心が増える
退職後の家計で大切なのは、
**“減らすこと”より、“見えるようにすること”**です。
キャッシュフロー表や年間家計簿に、
これまでの“固定費”だけでなく“特別支出”を組み込むことで、
「このペースなら大丈夫」という安心感が生まれます。
💡FPがすすめる「年単位家計の考え方」
| 支出の種類 | 例 | 年間予算の目安 |
|---|---|---|
| 固定費(生活費) | 食費・光熱費・通信費 | 240〜300万円 |
| 医療・健康費 | 通院・保険料 | 10〜15万円 |
| 税金・社会保険料 | 国保・住民税 | 40〜60万円 |
| 交際・趣味費 | 贈答・旅行・娯楽 | 20〜40万円 |
| 住宅・車関連 | 修繕・維持費 | 10〜20万円 |
| 予備費・突発費 | 冠婚葬祭・家電 | 10万円前後 |
→ 合計:年間350〜450万円程度
(夫婦2人暮らしの平均支出イメージ)
数字で把握することで、「使っても安心」「備えてある」という心理的な余裕が生まれます。
8. まとめ:お金を「減らさない」より、「整えて使う」
退職後のお金の不安は、
「減ること」よりも「見えていないこと」から生まれます。
医療費、税金、家や車、交際費、趣味――。
どれも“人生を支える出費”であり、
正しく予測して整えておけば、怖くはありません。
ファイナンシャルプランナーとしてお伝えしたいのは、
「使うために貯めてきたお金を、安心して使う仕組みを持つこと」。
「隠れ支出」を見える化し、
“お金に振り回される老後”から“お金を味方にする老後”へ。
それが、これからの60代が目指すべき家計スタイルです。