2025.11.1 <00951>
1. 「年金をいつからもらうか」で、人生設計は変わる
「年金って、いつからもらうのが一番おトクなんですか?」
60代の方から、最もよく聞かれる質問のひとつです。
でもこの質問、**“正解は人それぞれ”**なんです。
今の制度では、公的年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金)は
原則として 65歳から受け取れる ようになっています。
ただし、受け取り時期は自由に選ぶことができ、
- 60歳から早めにもらう(繰上げ受給)
- 70歳まで遅らせて増やす(繰下げ受給)
といった選択肢があります。
つまり、年金は「もらい方次第」で受け取る金額も変わり、
老後の生活設計や心理的な安心感にも影響してくるのです。
2. まず知っておきたい:受給年齢による“増減率”
それでは、実際に「早くもらう」「遅くもらう」でどのくらい違うのか、数字で見てみましょう。
💡老齢年金の繰上げ・繰下げの基本ルール
| 受け取り開始年齢 | 増減率 | 備考 |
|---|---|---|
| 60歳 | ▲24%(1ヶ月あたり0.4%減) | 5年早い受給で約4分の1減額 |
| 63歳 | ▲9.6% | 2年早くもらう場合 |
| 65歳 | ±0% | 標準受給年齢 |
| 68歳 | +14.4%(1ヶ月あたり0.7%増) | 3年遅らせると約1.14倍 |
| 70歳 | +28% | 5年遅らせると約1.28倍 |
たとえば、
老齢基礎年金が年間78万円(満額)とすると、
- 60歳受給:78万円 × 0.76 = 59万円
- 70歳受給:78万円 × 1.28 = 約100万円
となります。
つまり、同じ人でも受け取る時期によって年金額が約40万円も違うのです。
3. 「早くもらう」「遅くもらう」それぞれのメリット・デメリット
✅ 60歳から早くもらう(繰上げ受給)の特徴
メリット
- 仕事を完全リタイアして収入が減っても、すぐに年金がもらえる
- “自分のお金を早く使える”という心理的安心感
- 病気や寿命を考えた場合、早めにもらうほうが安心なケースも
デメリット
- 減額率が一生続く(元に戻らない)
- 働いて再び厚生年金に加入しても、金額が増えにくい
- 60代前半に年金を受け取ると、税金や社会保険料の計算で影響が出ることも
つまり、
「今すぐの生活安定を優先する人」には合いますが、
「長生きリスク」を考えると慎重に判断する必要があります。
✅ 70歳まで遅らせる(繰下げ受給)の特徴
メリット
- 年金額が最大28%アップ(終身で増額)
- 長生きするほど“得”になる構造
- 働きながら受け取らずにおけば、税金や在職調整の影響を受けにくい
デメリット
- 受け取りが遅れる分、受給開始前に生活資金が必要
- 「70歳まで生きないと損になる」と感じる心理的ハードル
- 繰下げをしすぎて体調を崩したり、楽しむ時期を逃すことも
4. どちらがトク?「損益分岐点」で考える
「早くもらう方がいい?」「遅くもらった方が得?」
この答えを考えるとき、**“損益分岐点”**という考え方が役に立ちます。
💰損益分岐点の目安
おおよそ、繰上げ vs 通常受給 の分岐点は「77〜78歳前後」。
繰下げ vs 通常受給 の分岐点は「82〜83歳前後」と言われています。
つまり、
- 「77歳より早く亡くなる場合」 → 早くもらった方が有利
- 「83歳より長生きする場合」 → 遅らせた方が有利
ただし、これは“単純な金額だけ”で見た場合の話。
実際には、健康状態・働き方・家族構成などを含めて考えることが大切です。
5. “自分に合った”もらい方を考える3つのステップ
STEP①:今と将来の「収入のバランス」を整理する
年金をいつからもらうかは、他の収入とのバランスで決まります。
たとえば:
- 60~64歳:退職金・雇用保険・パート収入などがあるか
- 65~69歳:在職年金の調整対象になるか
- 70歳以降:年金が主な収入源になるか
これらを“年次ごと”に並べることで、受け取り時期のイメージが明確になります。
FP相談では、キャッシュフロー表を作成して「収入の波」を可視化することで、安心感が大きく変わります。
STEP②:「人生のどの時期にお金を使いたいか」を考える
年金は、“長生きのための生活費”というだけでなく、
「人生をどう過ごしたいか」に合わせて使い方を考えることが大切です。
- 60代前半:旅行や趣味、健康への投資
- 70代:ゆったりした生活、家のメンテナンス
- 80代以降:医療・介護費
このように、お金を使う時期=人生を楽しむ時期でもあります。
年金の受け取り方を変えることで、“今を生きるお金”と“将来を守るお金”のバランスを整えられます。
STEP③:「夫婦2人の年金」をセットで考える
夫婦世帯の場合、年金のもらい方は2人の組み合わせで変わります。
たとえば、
- 夫が65歳、妻が63歳の場合
- 夫だけ先に受給し、妻は70歳まで繰下げる
といった“分けて調整”も可能です。
夫婦で年金の開始時期をずらすことで、
「税金の負担を分散」「長期的な家計の安定」などが実現できます。
また、遺族年金や加給年金の受け取りにも関係するため、
夫婦でシミュレーションを行うことが重要です。
6. こんなケースでは注意!年金受給の落とし穴
⚠️① 一度選ぶと「変更できない」
繰上げ・繰下げ受給を選ぶと、その後に変更はできません。
「思ったより長生きした」「働くことになった」となっても、
原則として戻せない点は注意が必要です。
⚠️② 働きながら年金をもらうと減額されることがある
60歳以降も厚生年金に加入して働く場合、
在職老齢年金制度によって支給額が調整されることがあります。
月収と年金の合計が 47万円を超える と減額対象になるため、
「働きながら受け取る」方は、年金額と収入のバランスを確認しておきましょう。
⚠️③ 税金・社会保険料の影響
年金も「雑所得」として課税対象です。
控除を超えると所得税・住民税が発生し、
医療費控除・国保保険料などにも影響することがあります。
7. FPが考える「年金のもらい方」3つの基本タイプ
💡タイプ①:安心優先タイプ(60〜63歳で受給)
→ 退職後すぐに生活費を年金でまかないたい人
→ 長生きより「今の生活安定」を重視
💡タイプ②:標準タイプ(65歳開始)
→ 平均的な健康・生活を想定
→ 収入・支出・年金のバランスを取りやすい王道パターン
💡タイプ③:長生き・ゆとり重視タイプ(68〜70歳)
→ 健康に自信があり、資産に余裕がある人
→ 将来の介護・医療費を見据えて、年金を増やしておきたい人
どれが正しいではなく、“自分のライフスタイルに合う選択”をすることが大切です。
8. まとめ:年金は「もらう時期」ではなく「どう生きたいか」で決めよう
年金は「いつもらうか」で損得が決まるもの――そう思われがちですが、
本当は、“これからの人生をどう過ごしたいか”を決めるためのツールです。
早くもらって旅行や趣味に使うのも良し、
遅らせて老後の安心を厚くするのも良し。
数字だけでなく、
✅ 健康状態
✅ 家族構成
✅ 働き方
✅ 貯蓄の有無
を合わせて、トータルで考えることがポイントです。
ファイナンシャルプランナーとして感じるのは、
「正しい答え」よりも、「納得できる選択」をすることが、
最も満足度の高い老後をつくるということ。