―「平均額」ではなく「わが家基準」で考える老後資金―
2025.11.09 <00959>
1. 「年金だけで暮らせる?」その不安はみんな同じ
退職が近づくと、ほとんどの方がこう感じます。
「老後って、実際どれくらいお金がかかるんだろう」
「うちは夫婦2人でどのくらい必要なの?」
テレビや雑誌では「老後資金2000万円問題」が話題になりましたが、
実際に必要な金額は**“家庭によってまったく違う”**のが現実です。
FPとして感じるのは、
「老後の不安の正体は“金額”ではなく“見通しのなさ”」だということ。
つまり、「どのくらい使って、どのくらい入るか」が見えていないから不安になるのです。
このブログでは、
① 老後の支出の現実
② 年金収入の平均とわが家の見方
③ 安心して暮らすための“3つの調整法”
を順に整理していきます。
2. 老後の生活費は、どのくらいかかるの?
まずは「支出」を見てみましょう。
総務省の家計調査(2024年)によると、
**高齢夫婦無職世帯(夫65歳・妻60歳以上)**の平均支出は以下の通りです。
💰夫婦2人の平均支出(月額)
| 支出項目 | 平均額 |
|---|---|
| 食費 | 約66,000円 |
| 住居費 | 約13,000円(持ち家の場合) |
| 光熱・水道費 | 約22,000円 |
| 保健医療 | 約16,000円 |
| 交通・通信 | 約28,000円 |
| 教養娯楽 | 約26,000円 |
| その他(交際費など) | 約45,000円 |
| 合計 | 約216,000円/月(年間約260万円) |
持ち家でローン完済済みの場合、この金額が目安になります。
ただし、
- 車を持っている
- 旅行や趣味が多い
- 医療・介護費が増える
といった条件で、月25〜30万円程度に上がる方も少なくありません。
💬FPポイント:
「平均」は参考程度。
本当に大事なのは、“あなたの生活スタイルでの実額”です。
3. 夫婦2人の年金収入はいくら?
次に、収入の柱となる年金の平均を見てみましょう。
💡夫婦2人の公的年金の平均(厚労省データ)
| タイプ | 年間支給額の目安 | 月額換算 |
|---|---|---|
| 夫:会社員、妻:専業主婦 | 約22万円 | 約260万円/年 |
| 夫婦ともに厚生年金加入 | 約28〜30万円 | 約340万円/年 |
| 夫婦ともに国民年金のみ | 約13万円 | 約155万円/年 |
この数字を見ると、
「年金だけで生活する」ことはできなくはありません。
しかし、**旅行・交際費・家修繕・医療費などの“特別支出”**を考えると、
年金収入だけでは足りない年が出てくるのが現実です。
📉例:夫婦2人・年金月22万円で生活
- 支出:月27万円
→ 不足:月5万円 × 12ヶ月 = 年60万円
→ 20年間で 1,200万円の取り崩しが必要
💬つまり、「2000万円問題」はこの数字の延長線上。
けれど、**“平均的な暮らしを前提にした一例”**にすぎません。
4. 「わが家基準」で見直す3つのポイント
ここからが本題です。
FPとして、老後の家計を安定させるためにお伝えしているのは、
「足りない金額を減らす」のではなく、
**“バランスを整える3つの視点”**です。
✅① 支出を“固定費”と“選択費”に分ける
老後の支出は、大きく2つに分けて考えましょう。
| 種類 | 内容 | 見直しポイント |
|---|---|---|
| 固定費 | 食費・光熱費・保険料・通信費など | 無駄の削減で効果が大きい |
| 選択費 | 趣味・旅行・交際費など | 「年単位」で予算を決める |
💡ポイント:
「削る」ではなく「予算化」すること。
月ごとではなく、“年間のゆとり枠”を決めるとストレスが減ります。
✅② 年金の“受け取り方”を工夫する
60代以降は、年金をいつ受け取るかも選択できます。
| 開始年齢 | 増減率 |
|---|---|
| 60歳 | 70%(30%減) |
| 65歳 | 基準 |
| 70歳 | 142%(42%増) |
「70歳まで繰下げ受給」すれば、一生増額された年金を受け取れます。
💬FPポイント:
繰下げが正解かどうかは、
- 健康状態
- 働く予定
- 貯蓄残高
で決まります。
「働いて収入があるうちは年金を遅らせる」も、ひとつの賢い選択。
✅③ “取り崩し方”を計画する
老後の資金は、「貯金を減らさず使う」のが理想ですが、
現実的には少しずつ取り崩すことになります。
大切なのは、**“どの順番で取り崩すか”**です。
📘取り崩しの優先順位(例)
1️⃣ 預金(生活予備費)
2️⃣ 定期・個人年金・投資信託など
3️⃣ 最後に退職金や長期運用分
→ 資産の種類によって“税金のかかり方”が違うため、
順番を工夫することで、手取りを増やせることもあります。
💬FPポイント:
老後資金の取り崩しは「年3〜4%以内」が安心ライン。
たとえば2000万円の資産なら、
年80万円(=月6.6万円)までの取り崩しを目安に。
5. 「わが家の老後安心ライン」を見つけよう
FP相談で行う最初のステップは、
「数字で見える化する」ことです。
💡家計の“安心ライン”を決める手順
1️⃣ 月の支出を書き出す(現役時代の実額から)
2️⃣ 年金収入(ねんきん定期便・ねんきんネットで確認)
3️⃣ 差額が「毎月の取り崩し額」
その結果、
「わが家は月3万円の不足で済む」
「年金だけでも8割カバーできている」
という“見通し”が立てば、不安がぐっと減ります。
📈例:夫婦2人(持ち家)のケース
| 項目 | 月額 | 年間 |
|---|---|---|
| 支出 | 260,000円 | 3,120,000円 |
| 年金収入 | 220,000円 | 2,640,000円 |
| 不足額 | 40,000円 | 480,000円 |
→ 年間48万円の赤字。
20年間で約960万円の取り崩しが必要。
しかし、
- 趣味費を月5,000円減らす
- 保険料の見直しで年間5万円削減
- iDeCo・NISAで利息をつける
などの調整で、“赤字を半分”にできるケースも多いです。
6. “平均”ではなく“あなたのペース”で生きる時代
老後資金の相談で、
「平均支出」や「年金額ランキング」を気にする方は多いですが、
FPとしてお伝えしたいのは――
「安心は、他人と比べて得るものではない」
「数字の根拠と、自分のペースを持つことが大切」
ということです。
夫婦の価値観やライフスタイルはそれぞれ。
「ゆとりある暮らし」も、「質素でも笑顔の暮らし」も、
どちらも正解です。
大切なのは、
- 自分たちに合った支出のリズムを知ること
- “将来が見える化”している状態をつくること
これだけで、老後の安心度はぐっと高まります。
7. まとめ:「数字で安心をつくる」ことが、老後の第一歩
年金生活は、決して「我慢の生活」ではありません。
むしろ、
“数字で整えることで、自由に生きられる時間を増やす”
のが、これからの60代の家計のあり方です。
💡まとめの3か条
1️⃣ 平均よりも“わが家の支出”を基準にする
2️⃣ 年金+α(運用・副収入)で無理のない生活を設計
3️⃣ キャッシュフロー表で「見える安心」を持つ
お金は「減らさない」より、「整えて使う」時代です。
夫婦で一度、
“未来の家計会議”をしてみましょう。
その時間こそが、何よりの安心資産になります。