“在職老齢年金”のしくみをわかりやすく解説
2025.11.5 <00955>
1. 「働いたら年金が減る」って本当?
60代の方からよく聞かれる質問があります。
「年金って、働くと減るんですよね?」
「せっかく頑張って働いても損になるのはイヤだなあ」
そう感じている方、とても多いです。
確かに、“働くと年金が一部減額される”ケースがあります。
でも実は、全員が減るわけではありません。
この制度の正式名称が、
👉 在職老齢年金(ざいしょくろうれいねんきん)。
簡単に言うと、
「年金を受け取りながら厚生年金に加入して働く人」の年金を
“収入が多すぎるときだけ一時的に調整する”しくみです。
つまり、「働く=損する」ではなく、
働き方と収入のバランスを取れば、むしろ得をする制度なんです。
2. 在職老齢年金の基本をおさらい
在職老齢年金は、
「厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受け取る人」が対象です。
🧾対象になる人
- 60歳〜70歳未満で働いている
- 厚生年金に加入している(正社員・再雇用・パートなど)
- 老齢厚生年金を受け取っている(または受給資格がある)
💡減額の仕組み(2025年時点)
在職老齢年金では、
給与+年金の合計額が一定額を超えると、年金が一部減額されます。
| 年齢区分 | 調整基準額 | 計算方法 |
|---|---|---|
| 60〜64歳 | 月28万円超 | (給与+年金−28万円)÷2 が減額 |
| 65歳〜69歳 | 月47万円超 | (給与+年金−47万円)÷2 が減額 |
| 70歳以降 | 制度なし(全額支給) | ※ただし保険料納付は継続 |
※給与=総支給額(標準報酬月額)
※年金=老齢厚生年金の月額(基礎年金は含まない)
📘例:65歳の男性の場合
- 給与:月30万円
- 老齢厚生年金:月20万円
→ 合計50万円
基準額47万円を3万円超えるので、
(50万円−47万円)÷2=1.5万円減額。
つまり、働いても全額カットではなく、少しだけ調整されるだけ。
3. 「損」ではなく「将来の得」になる理由
在職老齢年金で一時的に年金が減ることがありますが、
実は「損している」わけではありません。
なぜなら――
💡働いた分は、後から“年金額が増える”からです。
厚生年金に加入して働いている期間中も、
保険料を払っているため、
その分が65歳以降の年金額に上乗せされます。
つまり、
- 一時的に減っても
- 働いた期間が年金に反映されて
- 将来的に“もらえる年金が増える”
という仕組みなんです。
📈実際の上乗せ例
65歳で働き続け、68歳で退職する場合:
・年収400万円 × 3年
・標準報酬月額:33万円程度
この3年間の厚生年金加入により、
→ 約月3,000円〜4,000円程度、将来の年金額が増えます。
これが終身で続くため、
長生きするほど「働いていて良かった」と感じる方が多いのです。
4. 60歳〜70歳までの「働き方別」年金の扱い
在職老齢年金は、年齢によってルールが変わります。
自分がどのゾーンにいるのかを整理しておきましょう。
🔹【60〜64歳】調整がやや厳しめ
- 基準額が28万円と低め。
- フルタイム勤務だと減額対象になりやすい。
➡ 対策:
パート勤務や週3〜4日の勤務に抑えると、年金の減額を避けやすい。
🔹【65〜69歳】調整がゆるやかに
- 基準額が47万円に引き上げ。
- ほとんどの人が“全額支給”になるケースが増えた。
➡ 対策:
年金+給与のバランスを意識しつつ、働くことで上乗せ効果を狙う。
🔹【70歳以上】年金は全額支給!
- 調整制度なし。
- ただし厚生年金保険料は引き続き天引きされる。
➡ 働いた分だけ、翌年の年金額が自動的に再計算(再裁定)され、
年金が少しずつ増えていく。
5. 「在職定時改定」で年金が早く増えるようになった
以前は、在職中に年金額が増えるのは“退職後”でしたが、
2022年4月から制度が変わり、
働きながらでも翌年に年金が増えるようになりました。
これを「在職定時改定」といいます。
💡どういう仕組み?
たとえば:
- 2024年に厚生年金に加入して働いた分
→ 翌2025年10月以降の年金に自動的に反映
つまり、今働いた分が1年後には年金額に反映されるので、
“働き損”がなくなったのです。
この制度改正によって、
「もう少し働こう」「年金を増やしておこう」と考える方が増えています。
6. “働く年金世代”が気をつけたい3つのポイント
✅① 年金カットより「税金・社会保険料」に注意
在職老齢年金の調整よりも、
実は税金・社会保険料の影響の方が大きいケースがあります。
特に注意したいのが、
- 住民税(前年所得で計算)
- 国民健康保険・介護保険料の負担増
- 配偶者の扶養から外れるタイミング
これらを見落とすと、手取りが思ったより減ることも。
✅② 「年金を繰下げる」ことで賢く増やす
まだ年金をもらっていない方は、
受給開始を遅らせる“繰下げ受給”も選択肢です。
70歳まで遅らせると、
年金額が最大28%アップ(終身)。
「働いて収入があるうちは年金をもらわず、繰下げて増やす」
という選び方も、今の時代では非常に有効です。
✅③ 「働きすぎて減る」より「収入をうまく分ける」
夫婦共働き世帯では、
年金+給与の合計を47万円以内に調整する工夫も可能です。
例えば、
- ご主人が週4勤務にして妻がパート収入を補う
- ボーナスの支給時期を調整
- 役職手当を一時的に減らす
こうした方法で、
無理なく収入を保ちながら、年金の減額を防ぐことができます。
7. FPが考える「年金をもらいながら働く」の最適解
老後の働き方を考えるとき、
大切なのは「損得」だけでなく「バランス」。
💡FPとしておすすめしたいのは:
| タイプ | おすすめ戦略 |
|---|---|
| 健康で元気に働ける | 年金を繰下げて70歳から受給+現役収入を活用 |
| フルタイムは難しい | 年金を65歳から受給+パートで社会参加型の仕事 |
| 夫婦共働き | 年金+給与の合計を47万円以内で調整 |
| 自営業・再雇用 | 年金+事業収入の組み合わせを最適化 |
つまり、
「年金を減らさない働き方」より、「年金を増やす働き方」を選ぶことが、
これからの60代の新しい選択肢です。
8. まとめ:「働きながらもらう」は新しい“安心のかたち”
かつては「年金をもらう=引退」でした。
でも今の60代は違います。
元気で働ける人が増え、
「働く=年金を減らす制度」から
「働く=年金を育てる制度」へと変わりつつあります。
大切なのは、
✅ 年金と収入の合計を把握する
✅ 制度の仕組みを知り、損をしない働き方を選ぶ
✅ “働く=安心”につながるライフプランを描く
年金は「もらうタイミング」だけでなく、
「どう働きながらもらうか」でも金額が変わる時代です。
これからの老後は、
“働くこと”が“安心の一部”になる――
それが在職老齢年金を味方につけた、賢い生き方です。